ケーブル無しで映像と音声を出力できてしまうMiracast。スマホの画面も手軽にテレビに映し出せます |
それはさておき、今夏のNTTドコモ(以下、ドコモ)のスマートフォンのうち、富士通の「ARROWS NX F-05F」(筆者の愛機でもある)とシャープの「AQUOS ZETA SH-04F」では、旧機種までには付いていた「MHL」機能がカットされてしまいました(MHLについては本連載第2回を参照)。同じ今夏モデルでもソニーモバイルコミュニケーションズの「Xperia Z2 SO-03F」や「Xperia Z2 Tablet SO-05F」ではバージョンアップの上、4K(3840×2160ドット)画像の伝送に対応したのとは対照的です。
今まで付いていたものが廃止されると、程度の大小はあれど、寂しいことは事実。そこで、富士通とシャープの方に「何故なくしたん……?」と聞いてみたところ、口を揃えて「『Miracast』があるので、画像の外部出力をご希望ならそちらを使って欲しい」とのこと。しかし、この「Miracast」とは、一体何なのでしょうか。MHLと何が違うんでしょうか。今回のスマホ講座では、簡単に、一部マニアックにMiracastについて解説します。
ARROWS NX F-05FではMHLできない…… |
■Miracast=無線LANを利用して映像と音声を伝送する規格
ワイヤレスディスプレイのはしり「Intel WiDi」も今やMiracast準拠 |
Miracastは、本連載第1回で取り上げたWi-Fi Allianceが策定した、無線LANを利用して映像と音声を伝送する規格です。
Wi-Fi Allianceでは、無線LAN対応機器同士が簡単に直接通信できるようにする「Wi-Fi Direct」という規格も定めています。これを利用して、アクセスポイントを介すことなく、簡単に映像・音声をワイヤレス伝送できるようにしよう、という発想のもと生まれたのがMiracastなのです。
この手の規格は、パソコン向けの「Intel WiDi」を始めとして様々な取り組みが見られましたが、Miracast規格の策定後、これに一本化される方向です。Intel WiDiも、バージョン3.5以降はMiracast互換になりました。また、Android 4.2以降のAndroid OS、Windows 8/8.1はOSレベルでMiracastに対応しています。そのこともあってか、画像を送信する側であるWindowsパソコン・タブレットやAndroidスマホ・タブレットではMiracast対応が結構進んでいます。
Miracast対応の受像器(写真はNETGEARのPTV3000) |
一方の画像を受信する側ですが、従来は写真のような受像器を別途用意しないといけませんでしたが、最近ではデジタルテレビの上位機種を中心にMiracastの受像機能を内蔵したものも現れ始めています(もっとも、そういった機種では大抵MHLにも対応しているのですが)。受像器の価格は1万円を切るものも出てきているので、ムリして高級なテレビを買わずとも、HDMI入力端子に空きさえあれば、手持ちのテレビやモニターを簡単にMiracastに対応させることができます。
Miracast対応のパソコンやスマホなどでは、Miracast対応テレビもしくは受像器があれば、パソコンやスマホの画面や動画などをテレビに簡単に出力できてしまうわけです。
実際に出力する方法ですが、Miracast非対応のテレビに映し出す場合は、まずは受像器をテレビのHDMI入力端子に接続します。
前述のPTV3000の場合、HDMIケーブルを使ってテレビと接続し、PTV3000のmini-USB端子にUSB-ACアダプターを接続して電源を取ります。すると、接続したテレビに下図のような画面が表示されます。
PTV3000の接続待機画面 |
あとは、画面に表示されている指示通り、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの出力側の端末で設定をしてやればいいだけです。スマートフォンの場合、端末側でMiracastの機能をオンにした上で、出力先の受像器とペアリングすると、画面が外部出力されるようになります。端末側の設定は機種によりますが、ARROWS NX F-05Fの場合は「Wi-Fi」の項目内にあります。「Xperia Z1」の場合は「設定」→「Xperia接続設定」→「スクリーンミラーリング」という場所に項目がありますし、ホーム画面からワンタッチでMiracast出力ができるウィジェットも用意されています。この辺りは同じAndroid端末でもメーカーや機種によって設定場所が異なります。
検出したMiracastアダプターを選択してペアリング(ARROWS NX F-05Fの場合) |
■Miracast≠バラ色
映像や音声をワイヤレスで伝送できて便利なMiracastですが、欠点が全くない訳ではありません。Miracastは、映像を伝送する段階で不可逆圧縮されてしまいます(よく使われているH.264形式ではあります)。つまり、特に動画の表示品質の劣化は不可避なのです。スマホ自身で再生して視聴するときと、それをMiracastでテレビなどに伝送して見るときでは映像の品質が完全に同じではないということです(※編集部注:スマートフォンで撮影した動画のほか、YouTubeやHulu、dビデオなどを再生し、それをMiracastを介してテレビに出力することができますが、実際にはそれほど気になるほど劣化するわけではないので、視聴には問題ないと思います。ただし、気になるか気にならないかは個人差がありますので、その点はご了承下さい)。
「MiracastがあるからMHLは省略」という判断をした富士通とシャープ。
充電しながら使うことになるMHLの場合は、供給電流が少ない故に「スマホを充電しながら使ってもバッテリーが減る」ということになり、ユーザーに与える印象が良くないことが判断の背景のひとつにあります。事実、第2回の特集のときに利用した「ARROWS NX F-01F」でMHLを使って動画を外部に映し出すと、充電ランプが光っているのにバッテリーが減ってしまう状態に陥ってしまいました。こうした事情を知っている自分ですら、正直「なんで充電してるのにバッテリー減るんだよ」って思ってしまったぐらいです。
しかし、富士通とシャープの今夏モデルは、充電しているのにバッテリーが減る「不安感」を取り除いた代わりに、より良い画質で映像を映し出すオプションを放棄してしまったのです。充電しながらもバッテリー減少、というデメリットにはあえて目をつむり、MHLのスペックアップを図ったソニーモバイルコミュニケーションズの判断は、外部出力重視のユーザーには嬉しい判断だったと言えるでしょう。
そして、Miracastも、送信側・受信側双方の技術革新によって今後の画質向上を期待したいところです。それが厳しいのなら、MHL搭載の「復活」も視野に入れて欲しいなぁ、と思う今日この頃です。
この記事に対するご意見・ご感想はTwitterアカウント(@shoinoue)まで是非お寄せ下さい!!
記事執筆者プロフィール
せう
ブログ:せうの日記、Twitter:@shoinoue
静岡県三島市で産まれ、静岡県駿東郡長泉町で生まれ育ったアメリカ系日本人3世。見た目が日本人離れしている反動で、身の回りの道具は日本で開発されたものだらけである。ITmedia、andronaviを始めとするWeb媒体を中心に執筆活動を展開。自前のブログ「せうの日記」も宜しくお願いします。
ブログ:せうの日記、Twitter:@shoinoue
静岡県三島市で産まれ、静岡県駿東郡長泉町で生まれ育ったアメリカ系日本人3世。見た目が日本人離れしている反動で、身の回りの道具は日本で開発されたものだらけである。ITmedia、andronaviを始めとするWeb媒体を中心に執筆活動を展開。自前のブログ「せうの日記」も宜しくお願いします。
→「せう先生のスマホ講座」の他の記事はこちら
本コラムは毎月第1・第3金曜日更新予定!
本コラムは毎月第1・第3金曜日更新予定!