Android向けのアプリはAndroid Marketで公開することで基本的には全世界のユーザーを対象として配信できる。これにより、日本国内だけでは考えられないほどの莫大な数のユーザーを得られる可能性がある。
しかし、海外向けにアプリ配信をするには、課題もある。少なくとも言語という壁が存在している。最低限英語には対応しておくべきだし、欧米の大手デベロッパーの中には英語の他にもフランス語、スペイン語、ドイツ語などへの対応を含めた上でアプリをリリースしているところもある。
それでも、欧米諸国向けであれば独力で何とかできる可能性が高い。
先に述べたように最低限英語に対応しておけば、まず問題ない。また、配信マーケットもAndroid Marketで大丈夫だ。必要以上に厄介な手続きもない。ところが、中国と韓国に目を向けるとなると話は異なる。市場の環境がまるで違うからだ。特に本記事では韓国について述べていくが、韓国ではAndroid Market以上に通信事業者が運営する独自のアプリ・マーケットの力が強い。とりわけゲームアプリについてはその傾向が強いどころか、そもそもユーザーにとっての選択肢がそれしかない。
というのも、韓国ではゲームアプリは法律上、等級審議委員会による等級審議を受けねばならないことになっている。しかも、審議の結果与えられた等級をアプリに表示しなければ、販売・配信することができない。等級表示の問題の影響で、韓国ではAndroid Marketのゲームカテゴリは全面的に閉鎖されている。厄介な問題であることがわかるはずだ。
韓国では各通信事業者からAndroidスマートフォンが販売されており、すでに大きな市場規模に達している。例えばSK Telecomは200万人以上のユーザーを抱えている。年末までにはSK TelecomのAndroidユーザー数は400万人を超える見通しだ。KTなどの他社のユーザーも含めれば、Androidアプリ市場の規模は無視できないほどの大きさになる。少なくとも日本よりも現時点では何倍も大きい。
アプリ開発者は可能な限り配信先を増やしたいものだろう。中国や韓国をその対象に加えられるのであれば、それに越したことはない。しかし、韓国でアプリを配信するには韓国語へのローカライズのみならず、通信事業者のマーケットにアプリを載せる手続きをしなければならない。ゲームの場合には等級審査も必要だ。これらの点が韓国向けの配信における壁として立ちふさがっている。独力で解決するのも困難だろう。
そこで、このような問題を解決するサービスが登場した。
企業向けのシステムやウェブサイトなどの開発を手掛けるウェード・コム株式会社が、韓国でのアプリ配信事業を営むUbiNuri社と提携し、Androidアプリの韓国向けローカライズと配信代行サービスの提供を開始した。中国向けに関してはすでにいくつかの企業からこういったサポート・サービスの計画が聞こえてきているが、韓国向けの話は初かもしれない。
提携したUbiNuriは、もともと海外アプリの韓国へのローカライズや配信を行っている企業。韓国製アプリの海外への配信も手掛けている。日本のAndroidアプリ開発者の中にも、UbiNuriからのコンタクトを受けたことのある方もいるだろう。ウェード・コムは今回、UbiNuriとの間に入り、やり取りを円滑にさせるサポート役を担う。アプリ開発者はもちろん日本語でやり取り可能だ。
具体的なローカライズ、配信の流れを紹介しよう。
まずはローカライズが必要だ。アプリの開発者はウェードコムにアプリ内テキストのデータを渡す。ウェードコムはそれを韓国語に翻訳し、アプリ開発者に返信する。開発者は得られたテキストをアプリに組み込む。あとはできあがったアプリをウェード・コムに配信委託すればいい。委託されたアプリはウェード・コムからUbiNuriへ渡り、同社が韓国の通信事業者のマーケットへの登録申請を行う。アプリのジャンルがゲームの場合には、等級審議委員会への審査申請も代行する。
等級審査を受ける必要のあるアプリの場合は、審査結果がUbiNuriからウェード・コム経由でアプリ開発者へ伝えられる。アプリ開発者は与えられた等級をアプリに表示させる作業を行い、再度ファイルをウェード・コム経由でUbiNuriへ渡す。UbiNuriは改めてマーケットへの登録手続きに入る。
問題なく登録手続きが終了すれば、晴れて韓国市場へアプリがリリースされる。
アプリ開発者にとってはローカライズ及び配信手続き作業の手間を大幅にカットできるメリットがある。費用の多くはウェードコム、UbiNuriが負担するのでアプリ開発者はその点でも恩恵を受けることができる。例えば、翻訳も等級審議委員会への審査申請にかかる費用も無料だ。アプリ開発者の金銭的負担はほとんどない。ただし、アプリの売り上げの一部はマージンとして差し引かれることになる。UbiNuriが運営するマーケット「fingertool」の場合は売り上げの60%が開発者の取り分になる。通信事業者のマーケットの場合は50%だ。実際には韓国の消費税分が引かれるのでさらに若干少なくなるが、収益はウェード・コムが振り込みの形でアプリ開発者の指定口座に入金してくれる。
なお、アプリ開発者の作業負担については実際にはコピー防止措置であるARMの適用作業も必要になるなど、ここで説明した以上に若干の手間はかかる。
また、この配信代行サービスは年末に継続検討が行われることもあり、現時点では期間限定のものになる。来年以降の継続については今後次第となる。とはいえ、将来的には中国向けの配信代行サービスまで範囲を広げる可能性もあるようだ。
何にしても、こうした周辺ビジネスが増えてきたこともAndroidスマートフォンの市場が拡大していることの証と言えそうだ。今後も数多くのサポート・サービスが各社から登場してくるだろう。
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